ベトナムスタバに学ぶ、東南アジアで食品を高価格で売る方法

こんにちは。ベトナムで食品企業を12年間運営している荒島が、統計などのデータ上では分からない、現地の生の情報をお伝えするコラムです。
今回のテーマは、「ベトナムスタバに学ぶ、東南アジアで食品を高価格で売る方法」です。
ベトナムのスターバックスの店舗数は2023年9月に100店舗を突破しました。2013年の初出店以降10年間の進出店舗数と考えると、少ないように思われるかもしれませんが(比較として、日本国内の店舗数は2000店舗弱(2024年9月末))、高価なカフェが物価の安いベトナムでこれほど拡大を続けているのは、注目に値します。
ベトナムはコーヒー大国であり、町中を歩けばカフェもたくさんあります。スタバのコーヒーの価格は、ベトナムの一般的なカフェの5倍程度の値段感です。ベトナムでは物価は日本の1/4くらいですが、スタバの商品は日本と同じくらいの価格で売られているのです。それでも100店舗もの拡大ができているのは、驚くべきことです。
日本から食品を輸出する際、運搬等にコストがかかるなど、品質維持のために現地の類似商品の価格帯よりも高価格で売り出したいと考えることがあると思います。その際に、スタバの戦略には、参考にできることがあるのではないでしょうか。
筆者は、現地でSTAR KITCHENというスイーツ会社を経営しており、スタバ向けにもスイーツの開発を行っています。その目線も交えてお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

筆者プロフィール
荒島由也・スター・コンサルティング・ジャパン 代表 https://www.star-consulting-japan.com・STAR KITCHEN 代表 https://www.starkitchen-vietnam-gift.com/・独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業アドバイザー(新事業開拓)」神戸市海外ビジネスセンターアドバイザー、岩手県産業創造アドバイザー・日越外交樹立50周年”両国の未来を牽引する若者(U40) (2023)
1.ベトナムのカフェ事情
先述の通り、ベトナムには低価格のカフェがたくさんあります。低価格と言っても、品質が悪いわけではありません。ベトナムはコーヒー豆収穫高世界2位のコーヒー大国で、良質のコーヒー豆が安価に手に入るのです。
2.ベトナムスタバのコーヒーが高くても売れるわけ①経験を売っている
それでも消費者がわざわざお金を多く払ってスタバに行く理由、その一番大きなものは、「体験」です。消費者が高価格を払うのは単に味が良いと言うだけではなく、そこに特別な体験価値があるからなのです。
ベトナムスタバは、そこに行くこと自体が人にとって価値になっています。実際にお店に行ってみると、店構えに洗練された雰囲気があり、落ち着いた高級な場所が演出されていることが分かります。
来ている人を眺めてみると、自撮りしてSNSに上げる人も多く、スタバに行くこと自体が自慢できる価値になっているとわかります。屋台でのコーヒーが50円で手に入る中、300円のスタバに行くということは、とてもスペシャルな経験です。スタバは自慢できる場所としての価値を作り上げ、それによって高価格での販売を実現しているのです。
皆様が日本からの食品の輸出を検討する際、高品質を売りにして高価格で売り出したいと考えることがあると思います。その際は、その商品の売り方に体験価値を付加することで、より高価格で売りやすくなります。例えば高級ショッピングモールに出店し、店構えの雰囲気を含めて特別感を演出したり、店頭で焼く場合は機材も含めて販売して演出を行ったり、SNSで自慢したくなる包装にしたりと、様々な方法が考えられます。もちろん、それを消費者に伝えていくマーケティングも重要になってきます。
3.ベトナムスタバのコーヒーが高くても売れるわけ②スタッフが自律的に動いている
特別感の演出のひとつとして、サービス水準を高めるというものがあります。ですが、一般に日本のサービスレベルを海外で実践するのはハードルが高いです。例えばベトナム人にマニュアルやチェックリストを用意しても、それが浸透しにくかったり、浸透したとしても逆に応用が利かなくなったりということが起こります。「察して動く」ということは、海外では普通ではありません。
そんな中、スタバはスタッフの自律性が徹底されています。その接客レベルは、ベトナムにおいては5つ星のホテルに匹敵するほどです。
高水準のサービスは、マニュアルに沿うだけでなく、人材個人が自律的に動くことによってはじめて成り立ちます。その際に大事なのは組織の価値観をスタッフに充分浸透させることです。個別の対応だけでなく、どういった方針に沿って動くかという精神的な面を育てていくことが必要なのです。
スタバでは働く側にとっても、「スタバで働いている」ということ自体が誇りになっており、それを守るためにプライドを持って仕事をしています。先述の体験価値の向上が、ここでも相乗効果を発揮しています。
日本から食品を輸出する際、カフェでなく販売のみの業態であったとしても、スタッフのサービスレベルが重要になるときは必ずあります。例えば試食販売や消費者との店頭コミュニケーションなどが挙げられるでしょう。スタッフの育成についても、現地に投げるだけでなく、よく検討する必要があります。
4.ベトナムスタバのコーヒーが高くても売れるわけ③商品開発のローカライズ
これまでのコラムでお伝えした通り、ベトナムでは普段甘い菓子は食べられません。ですが、ベトナムのスタバではしっかりとケーキが売れています。これは、その1でお伝えした体験価値との相乗効果によるものです。スタバに特別な場所のイメージがついているからこそ、普段食べられないケーキも売れるのです。
ただし、味を現地の好みに合わせる必要があるのは、ここでも変わりません。例えばティラミスやチーズケーキは、ベトナム人の好みの味であるコーヒーやチーズに合わせたラインナップです。味は甘さを抑えめに作られています。また、フランス文化の影響によりカスタードも人気なので、クレームブリュレもあります。日本人の定番ショートケーキは一般にベトナムではあまり食べられませんが、現地の人の味覚に合わせて生クリームの脂肪分を抑え、SNS映えするデザインにすることで、ラインナップのひとつになっています。
5.今回のまとめ
今回は、物価の低い東南アジアで、高価格の食品をどのようにして売るかについてお伝えしました。すでに現地で拡大している企業の方法を参考にすることは、輸出戦略の検討の際に大きな助けになります。
今回のコラムが、皆様の食品輸出検討の参考になれば幸いです。
なお、今回のコラムの内容は下記Youtubeでもご紹介していますので、ぜひご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=yUmoeDCO_UI
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